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はじめに
―ジストニアの疫学に関する問題―
ジストニアの疫学に関する報告はそのほとんどが海外からの報告であり,日本の報告はほとんどない75,83)。そのため,これまで報告されている傾向や頻度が必ずしも日本人における実情と一致しない可能性があることに注意する必要がある。ジストニアの頻度は性や年齢構成,文化的背景などによっても影響を受ける可能性があり,同じ人種間であっても調査対象とする地域や人口構成などによってもその頻度が異なる可能性がある。調査の方法が病院調査や患者記録調査の場合では,受診しない患者や別の診断を受けてそのままとなっている患者を把握することはできず,全体として過小評価となる可能性がある。調査対象診療科についても,神経内科だけでなく,神経小児科などを含むかどうかによっても精度が変わる。また,訪問調査などの場合には地域を網羅できる可能性がある反面,診断に不確実さがでる可能性がある。われわれが1993年と2004年,鳥取県西部において疫学調査を行った結果83,127)では,患者数の増加を認めた。1993年にはA型ボツリヌス毒素製剤が保険適応認可されておらず,1997年に国内で認可され,その後から医療機関を受診する患者が増加し,患者把握が容易になったため患者数が増加したものと考えられた。このようにその時期・地域における治療薬の認可状況の影響も大きいと考えられる。
ジストニアの調査においてもう1つ重要な問題としては,ジストニアの診断についての問題がある。これまでジストニア調査においてはFahnによる診断分類26,28)が多く用いられるが,これを含めて検証された臨床的診断基準がなく,それぞれの医師の経験によって得られたジストニアの認識によって診断に差異が生じている69)。そのため1/3~2/3のジストニア患者がジストニアと診断されていない,あるいはジストニアとは異なった疾患として診断されている可能性が指摘されている17)。ジストニアはここ数十年でようやく明らかになってきた疾患であることに加えて,ジストニアは症候群であって単一疾患を指すものではないことからその診断には困難を伴う。ジストニアの症状がすべて出現するまでに長い期間を要し,さらに軽症患者については簡単な診察では診断がつかず頻回に慎重な診察による診断が必要とされる。このような問題点がジストニアの疫学研究全般に関して指摘されており留意する必要がある17)。
昨年,厚生労働省精神・神経疾患研究委託費15公-2「ジストニアの疫学,診断,治療法に関する総合的研究」班において日本神経学会専門医を対象としてジストニアに関する全国調査が行われた。その結果に関する途中経過報告では,平成15年度においてジストニア患者を診察していないと回答した専門医が31.8%に上ることが報告された128)。これは,ジストニア患者を本当に診察していないのか,あるいはジストニアと認識していないのかが問題となる。疫学のさらなる精度向上のためには診断基準(指針)とその正しい運用が必要になる。
ジストニアの疫学についてはこのような問題点に留意して検討を行う必要がある。
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