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第16回目の本会は,横浜市立大学医学部精神医学教室教授小阪憲司会長のもと1997年10月3,4日に横浜市教育文化会館で開催された。我が国の精神医学系学会は伝統的に研究の方法論によって分化してきたが,本会では痴呆を主題に様々な方法論で基礎から臨床まで幅広く検討されるため,高齢社会の到来の中で存在意義は高まってきている。今回も小阪会長の痴呆疾患解明にかける情熱が感じられ,しかもそれがすばらしい形でプログラム構成に反映されていたため,また近年めざしてきた基礎医学研究者との連携がさらに進んだこともあり,これまでにない350名という参加者を数えた。
学術発表の内容は,近年の痴呆研究の流れを反映して,アルツハイマー病(AD)関連と非AD関連に大別できた。まず,特別講演はAD関連として,都精神研森啓参事研究員ならびに大阪大学医学部精神医学教室武田雅俊教授によって行われた。森氏は老人斑のアミロイド沈着にアミロイド前駆体蛋白遺伝子変異やアポE遺伝子多型が影響する知見を挙げ,形態学的所見である老人斑は遺伝子異常が表現されたものであるとの興味深い考え方を示された。武田氏は教室で行われている多くのAD研究の中から神経原線維変化におけるタウ蛋白の異常リン酸化機序の解明をめざす研究について触れられた。特に,グリコーゲン合成酵素キナーゼなどの酵素によるタウ蛋白のリン酸化の調節機序を明らかにすることの重要性を指摘し,そこから細胞死や治療法の開発への可能性も述べられた。一方,シンポジウムは,びまん性レビー小体病(横浜市大/井関栄三氏ならびに東大薬学/岩坪威氏),石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化病(都精神研/池田研二氏ならびに岡山大/石津秀樹氏),そして辺縁系に限局性の神経原線維変化が出現する老年痴呆(東京医科歯科大/山田正仁氏ならびに都老人研/坂田増弘氏)といった近年小阪会長を中心として神経病理学的観点から提案されてきた非AD型変性性痴呆が主題であった。特に,びまん性レビー小体病はADに次いで頻度が高い痴呆疾患として世界的に認識されつつあるが,今後これらの疾患がどのように体系化されていくのか注目される。
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