「精神医学」への手紙
Letter—「躁病者犯罪の行動特性」について
高岡 健
1
,
深尾 琢
2
1岐阜大学医学部精神科
2羽島市民病院精神科
pp.1342
発行日 1995年12月15日
Published Date 1995/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405904010
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1991年の本誌において早川ら1)は,起訴前精神鑑定例の中から躁病8例を取り出し,犯行時刻が午前中に集中していることを指摘したうえで,これらを活動延長型3例と早期活動型5例に分類している。前者は前夜から就寝することなく犯行がなされた例で,全例が自己の欲望を満たすため無計画に犯行をなしているのに対し,後者は特定の人物に怨恨を抱き報復目的の犯行をなしている点で相違があるとしている。早川らは「このような傾向が一般的なものであるか否か…いっそう詳しい検討を重ねていきたい」と付記しているが,躁病の犯罪例自体が極めて少ない2)こと,および早川らの対象が関東C地方検察庁管内に限られていることに鑑みるなら,かかる傾向の妥当性を検討するためには他の地方からの事例が集積される必要があると考えられる。そこで,筆者らが最近行った中部G地方検察庁管内の起訴前鑑定例を紹介する。
症例1は,25歳の男性。犯罪歴はない。明らかにうつ病と考えられる既往を持ち,犯行2か月前から躁状態に陥っていたが治療歴はない。犯行前夜は遅くまで飲酒し,そのまま眠らず,「豪遊したいため」午前9時に強盗を行うに至った。無責任能力と鑑定され,起訴猶予となり,その後医療保護入院となった。症例2は,27歳の男性。犯罪歴はない。躁病と考えられる状態のため2度の入院歴がある。犯行2週前より躁状態に陥り治療を受けていたが服薬は不規則であった。犯行前夜は「会社へ見回りに行く」と言って出掛け,そのまま眠らず,午前3時に信号無視をした車を止め,運転していた女性に対し強姦致傷をなすに至った。限定責任能力と鑑定され,求公判となった。
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