巻頭言
医療と人権—ハンセン病の場合
大谷 藤郎
1,2
1藤楓協会
2国際医療福祉大学
pp.906-907
発行日 1995年9月15日
Published Date 1995/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405903942
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医師をはじめ医療従事者は,憲法にいう人権とか基本的人権の意味をよく理解しておくことが必要である。私は,そのことを自分のような昔の旧帝国憲法下の外見的な人権思想の下で育った戦中派とか,それ以前の戦前派だけの戒めかと思っていたが,新憲法下で新しい教育を受けて戦後に生まれ育った世代,現在の日本人の多数を占める若い人々も,やっぱり理解不足で,同じことを言わなければならぬと最近痛感している。
人権とは基本的に,お互いの人格を認め,人間の尊厳を認めるということであろうが,社会の近代化が進むにつれて,具体的には自由権から出発して参政権,社会権とだんだんと複雑になってきた。こういうふうに法律学的に難しくなってくると,我々理系の教育で育ったものは難しく考えることが苦手で,それらを分析的にはっきりと勉強して理解しておこうとすることからついつい逃避してしまう。しかしこれは大変危険なことである。自分が勉強して理解することまでできなくても,少なくとも疑問を感じた時には思想家・法律家に意見を求めるという意欲は持っていなくてはならない。そうでなければ自分と一番かかわりのある患者さんの人権を侵害しても,その自覚さえないということが起こりうる。
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