「精神医学」への手紙
Letter—悪性症候群の急性腎不全と後遺症の問題について/Answer—レターにお答えして—岩淵潔氏へのお返事—2症例の現状
岩淵 潔
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1東京都精神医学総合研究所神経病理研究部門
pp.570-571
発行日 1993年5月15日
Published Date 1993/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405903455
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本誌に掲載された谷口典男氏らの論文5)を興味深く拝読いたしました。ここでは谷口氏らの症例の現在の状態についてうかがいたいと思います。
私は1988年の本誌2)で悪性症候群(NMS)22例について検討しました。それはまだNMSが一般的な知識とはなっていなかった1970年代前半から1985年までに経験した症例を対象とした研究でしたが,急性腎不全(ARF)の合併の有無を問わず大半の症例は薬物の中止と全身管理で2〜3週間以内に回復しました(回復可能群)。しかし,谷口氏らの症例1は第282病日でつかまり立ちができる程度で構音障害を残し,30kg近い体重減少がみられ,症例3も第79病日で寝たきりの状態で下肢に強い筋力低下があるようです。これは私がNMSの回復不能群とした症例に似ています。その特徴は回復が遅れ,経過とともに小脳性運動失調(はじめは構音障害に気づく)が明らかとなり,重症例では動作時の粗大な振戦やアテトーゼ様の不随意運動を認め,なかには下肢優位で全身性の筋原性筋萎縮のために著しい体重の減少が起きる場合もあります1,3,4)。脳の組織病理では小脳皮質プルキンエ細胞—歯状核遠心系の破壊像をみます3)が,肉眼的に小脳萎縮の程度は軽く,CTスキャンなどで小脳萎縮をみるには相当な時間を要する点も1つの特徴です4)。なお,これはARFやDICの有無を問わず起きうるNMSの後遺症です。そこで,谷口氏らの2症例について,現在,小脳性運動失調があるかどうか,症例1の体重減少の背景に筋萎縮があるか,もしあれば,画像診断所見や筋生検の結果についてもご教示いただければ幸いです。
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