「精神医学」への手紙
Letter—「行動と認知と情動—病態の探索をめぐって」(1)を読んで/Answer—レターにお答えして「行動と認知と情動—病態の探索をめぐって」補遺
丹羽 真一
1
1東京大学病院精神神経科
pp.900-901
発行日 1991年8月15日
Published Date 1991/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405903106
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- 文献概要
本誌32巻12号の巻頭言「行動と認知と情動」をめぐって私見を述べさせていただきます。この巻頭言では,内因性精神障害における認知と情動の障害の構造的な関係が中心的に問われており,しかも認知は狭く理解されています。精神障害における障害の構造という観点で包括的に考える時には,認知という用語は広く情報処理の一局面と理解するほうが生産的であると思われます。
認知機能の発達が不十分な個体発達の初期においては,情動は情報の自己中心的な意味処理と行動の選択に重要な役割を果たしています。認知機能の成熟に伴って認知と行動の連結が強まります。しかし成熟段階においても情動は脳の情報処理の中で意味の認識にバイアスをかける,意欲・動機づけなどにより認知・行動の全体的な枠組みを設定するなどの役割を果たすものと考えられます。問題は認知と情動とでどちらかが一次的な情報処理システムであるという関係があるかという点です。Pankseppが主張している一次性情動過程という意味は進化的にいって古く一次性であるという意味であり,脳の中で情動が一次的であるということではないと思われます。情報は両システムで並列・分散的に処理されるものと考えられます。
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