巻頭言
行動と認知と情動—病態の探索をめぐって
諏訪 望
1
1埼玉医科大学神経精神科センター
pp.1266-1267
発行日 1990年12月15日
Published Date 1990/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405902954
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Ⅰ.
精神医学は精神疾患の病態を正確にとらえることを出発点としている。ところで,病態という概念は多少曖昧である。ここでは単なる記述的な状態像という意味ではなく,その発現の機序をも反映する力動的構造としての状態像と解しておきたいと思う。そのわけは,病者と相対するときに,それが病態を解明するための診断的行為であるならば,我々は決して単純な記述的態度をとるだけではなく,同時に上述のような力動的構造の探索をも進めているのが実情であるからである。
精神医学はこの半世紀の間に著しい多様化の道を辿り続けてきた。それを学問の進歩と呼んでよいか否かは別として,このような変容をもたらしたいくつかの要因が指摘される。その主なものとして,向精神薬の開発はいうまでもなく,各精神疾患の成因を究明するための方法論,とくに生物学的方法論が,その基盤となっているそれぞれの科学の分野の細分化と精密化によって著しく多彩になったことが挙げられる。一方,変容の原因の一部を,特定の精神疾患の発現頻度あるいは病態の時代的変遷の中に求めようとする見方もある。しかしたとえば梅毒,覚醒剤あるいはAIDSなどのような,明らかに時代的社会的に変遷する諸条件に起因しているいくつかの精神疾患を除いて,とくにいわゆる内因性あるいは心因性疾患の場合は,病態に接近する仕方の多角化が大きく関与していることを看過するわけにはいかないであろう。
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