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二つの研究の共通点は,抗精神病薬の臨床効果の薬理学的作用機序を明らかにすることによって,分裂病の病態・病因を神経化学的に説明することを目的としていることであるといえる。周知の通り分裂病のdopamine(DA)過剰仮説も同様の方法論を用いて導き出されたものであり,この方法は分裂病の生物学的研究において極めてオーソドックスなものである。現在,臨床使用されている分裂病治療薬の薬理作用の基盤が,DA受容体の中でもD2受容体遮断作用によるものであることをSeeman5)が示した。ただし,これらの薬物は分裂病症状のうちでもいわゆる陽性症状に対して治療効果を持つが,陰性症状に対しては的確な効果をもっていない。したがって,DA過剰仮説も今のところ分裂病全体ではなく幻覚・妄想などの陽性症状を説明する仮説と考えられる。さらにいえば抗精神病作用はD2受容体遮断作用によると断定するだけの十分な根拠が得られているわけでもなく,抗精神病薬がDA遮断作用を共通してもっているのは,chlorpromazineやhaloperido1以来そのような薬物をスクリーニングし臨床使用した結果であることを念頭におかなければならない。こういった現状からD2のみに固執することなく(極めて重要ではあるが)抗精神病薬の薬理機序に関する知識を積み上げる必要がある。最近の精神薬理学的研究結果から,serotonin(5-HT)やglutamate神経系,PCP結合部位やσ結合部位などが,精神機能や分裂病との関連で注目されてきている。そういった観点から,この二つの研究報告は極めて今日的なものであるといえる。
松原氏らの研究目的は,最終的には分裂病陰性症状に5-HT機能が関与しているか否か明らかにすることにあるといえる。さしあたり各種抗精神病薬の5-HT2受容体とD2受容体に対する遮断力価の比が,typical antipsychotic drug(TAD),とatypical antipsychotic drug(AAD)の分類の指標になることに力点をおかれた。そのKi値の結果をみると,確かにAADおよびその候補とされる薬剤のほとんどで,Ki値の5-HT2/D2比は0.1以下で相対的に5-HT2受容体に対する遮断効果のほうが強い。従来,thioridazineのような錐体外路性副作用の少ない抗精神病薬のその特徴は,抗コリン作用を持っているためと説明されてきた。代表的AADの一つであるclozapineについてもそのように考えられてきた。しかし,松原氏らの指摘どおり,この二つの薬剤の各種受容体に対する親和性のプロフィール(図1)からみても,相対的に強い5-HT2受容体拮抗作用がAADの錐体外路性副作用の少なさの生化学的基盤の一つである可能性は十分ある。ただし,報告の中でAADとして位置づけられている薬剤の中には,今のところAADの候補にしか過ぎずAADと分類するだけの十分な臨床所見が得られていないものが含まれていることにも留意する必要がある。しかも,ここでこの説明に当てはまらない薬剤の存在を指摘しておかなければならない。TADの分類に入れられているpimozideは示されたとおりD2受容体に極めて選択性が高く,5-HT2受容体に対しては弱い選択性を持っている。各種受容体に対する相対的親和性プロフィールがこのpimozideに最も似ている薬剤に代表的なAADであるsulpirideがある。sulpirideは相対的にpimozide以上にD2に対して親和性が高く,5-HT2に対して低い。今回示された結果の中にsulpirideは含まれていないが,この代表的AADは松原氏らの分類では最も典型的なTADになる。したがって5-HT2受容体に対する親和性の高さでのみAADを特徴づけるわけにはいかないと考えられる。
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