- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
精神分裂病や躁うつ病の成因の少なくとも一部はモノアミンの神経伝達異常によると推定され,また向精神薬はその異常な神経伝達を改善することによりその薬効を発揮すると考えられている。この神経伝達情報を受けとる受容体は1970年代までは薬理学的概念にすぎなかったが,モノアミン受容体結合測定法の確立によりその実体がようやくとらえられるようになり,抗精神病薬の有する抗幻覚妄想力価とD2ドーパミン受容体の阻害力価との間に高い相関が示されるに至った。さらに精神分裂病死後脳でD2ドーパミン受容体密度の増加,うつ病死後脳で5-HT2セロトニン受容体密度の増加が相次いで報告されるようになり,モノアミン受容体の病因的役割も論じられるようになっている。
しかも近年の分子生物学的研究の進歩により,糖蛋白であるこれらのアミン受容体のうち,そのアミン酸配列が解明された受容体は,現在までのところ,D1,D2,D3ドーパミン,α1B,α2・C10,α2・C4アドレナリン,β1,β2,β3アドレナリン,5-HT1A,5-HT1C,5-HT2セロトニン受容体などである。これらの受容体は魅惑の7回貫通型と呼ばれるようにいずれも細胞膜を繰返し7回貫通し,GTP結合調節蛋白と共役して,アデニル酸シクラーゼやホスホリパーゼCを活性化する。その結果,2次メッセンジャーであるサイクリックAMPや,イノシトール-3-リン酸,ジアシルグリセロール産生が調節され,種々のリン酸化反応も調節を受け,種々の細胞機能の調節が司られることが明らかにされている。これらのめざましい研究成果を取り入れた各種精神疾患における受容体・情報伝達系の病態生化学的研究や,生物学的マーカーの研究,また各種向精神薬の受容体・情報伝達系相互に対する作用機序の研究などが盛んにすすめられるようになってきている。
Copyright © 1991, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.