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はじめに
ヒトの脳と心理機能の研究において,脳損傷患者を対象とした伝統的な神経心理学的研究に加えて神経機能画像法(ニューロイメージング:PET;positron emission tomography,fMRI;Functional magnetic resonance imagingなど)を用いた研究が現在活発に行われている。これら2つの研究手法にはそれぞれ長所と短所がある。神経心理学的研究では,患者が呈する症状の分析からヒトの心理機能の構造についての新たな洞察が得られる場合がある。さらに,脳損傷部位は障害された心理機能の正常な遂行に必要な部位と考えられる。しかし,その損傷領域はかなり広範な場合も多く,脳と心理機能の関係については多くを語れない場合も多い。また,その心理機能が複数のサブプロセスのどこで障害されたのかを特定することはかなり困難な場合も多い。一方,神経機能画像法を用いた研究では,ある認知活動を遂行中に活動が認められた部位はその心理機能に参加している領域であり,必須の領域かどうかはわからないという問題がある。また,その実験課題がどのような統制課題と比較されているのかによって結果は異なってくる。しかし,課題の組み方や解析手段を工夫することによって想定される心理機能に関連した脳活動領域をかなり限定することも可能であり,また検証的な研究が可能である。結局のところ,これら2つの研究方法は相補的であり,このような異なる方法からの研究結果がある程度一致した場合には,その結果の信頼性は高まるし,結果の解釈もより正しい方向へ向かうと考えられる。本稿では我々の研究室と共同研究者とで行ってきた研究の中から,作業記憶と外側前頭前野,エピソード記憶再生と前脳基底部,人名想起と左側頭葉の3つのトピックスについての神経心理学的研究と神経機能画像研究を紹介する。
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