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神経画像を用いた統合失調症の病態研究
統合失調症は,複雑な遺伝・環境要因による神経発達障害を素因として,思春期以降に前駆状態〔精神病様症状体験(psychotic like experiences;PLEs),知覚過敏,思考力低下,社会的ひきこもりなど〕の時期を経た後,幻聴・妄想などの陽性症状を呈して顕在発症する臨床症候群である。初発精神病エピソードを抗精神病薬によって治療し,陽性症状が治まった後には,認知機能低下に基づく社会機能障害が前景に立つ慢性期に移行することが多く,一部の患者では再発が繰り返され,難治化することもある。
我々は,事象関連電位(event-related potentials;ERPs)を用いて,統合失調症の幻聴・思考障害などの中核症候の基盤として重要な上側頭回の機能障害の検討を行い,上側頭回における聴覚性感覚記憶機構を反映するミスマッチ陰性電位(mismatch negativity;MMN)が統合失調症において減衰することを確認した9,10)。次に,統合失調症の早期診断・治療を実現するには,初発時期の脳病態の理解が重要であると考え,MRIやERPs計測を中心とした神経画像・神経生理手法を用いた臨床研究を行ってきた。すなわち,統合失調症患者を初発時点から18か月フォローする前方視的研究によって,上側頭回灰白質の構造・機能に発症後にも進行性異常を認めるかを検討した。具体的には,1.5T-MRIを用いて,上側頭回のうち,へシェル回(Heschl's gyrus;ほぼ一次聴覚野に相当)と側頭平面〔planum temporale;聴覚連合野や異感覚間連合野(ウェルニケ領域)の一部を含む〕の灰白質体積を初発時点と18か月後に計測した。また,上側頭回の機能プローブとしてはMMNを計測した。初発感情障害患者群および健常群を対照とした。聴覚性MMNは,被験者が音刺激を無視している条件で,逸脱刺激に対するERPから標準刺激に対するERPを引いた差分波形から同定され,聴覚皮質における感覚記憶過程を反映するとされる。統合失調症患者を対象としてMMNを計測した研究はこれまでにも数多く報告され,多くの研究で振幅減衰が再現されている。MMNは,その発生機構に興奮性アミノ酸神経伝達の関与が明らかにされていることから,統合失調症のグルタミン酸系異常仮説に合致する所見として注目されている。
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