巻頭言
神経可塑性と精神医学
千葉 茂
1
1旭川医科大学医学部精神医学講座
pp.236-237
発行日 2002年3月15日
Published Date 2002/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405902594
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今から21年前,「燃え上がり現象—てんかんと精神病への新しいアプローチ」1)というタイトルの本が出版された。当時,大学院に在籍していた私は燃え上がり現象(kindling effect,以下キンドリング)を用いた実験を行っていたので,この本は忘れがたく大切な本である。この本を通して,神経可塑性の観点からてんかん発作や精神現象を見ていくことの重要性を学ばせていただいた。
脳は,分子(1Å),細胞下構造(例えばシナプス)(1μm),神経細胞(100μm),神経回路(1mm),領野(マップ)(1cm),領野複合体としてのシステム(10cm),および脳全体(1m)という7つの複数の階層からなっている。ひとりの人間における脳機能を論じる場合には,各々の階層で生ずる1つ1つの現象の間の関連性を探っていくことが重要であろう。例えば,動物における1つの遺伝子操作が,海馬のシナプスレベルで生ずるlong-term potentiationというシナプス可塑性と,空間記憶能力という領野複合体システムで生ずる神経可塑性に対して,どのような影響を及ぼすかについてはすでに報告があるが,近年このような実験研究の知見を積み重ねていくことによって,分子・シナプスと領野複合体システムとの間の理解は急速に深まってきた。また,この延長線上に,動物の,あるいはヒトの脳全体の理解,すなわちニューロンから出来ている複雑系としての脳全体の理解があると思われる。
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