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はじめに
解離(dissociative identity disorder:DID)の症状がある当事者として,解離について,医療に携わっている方々に読んでいただける機会をいただき,大変ありがたく思っています。
私が最もお伝えしたいのは,解離は精神疾患であると同時に,サバイバルするための力でもある,ということです。この視点が欠けると,解離はなくさなければならない症状とみなされてしまいます。
私を含め,解離の症状が強い人たちは,生きるか死ぬか,といった感覚を何度も経験している可能性が高いです。それは多くの場合,子どもの頃の被虐待(特に性虐待)経験によるものです。耐えがたい事態に遭い,独りで抱えきれずに複数の人格を作り出さざるを得なかった経験が過去にあります。今までも,そして今後も,トラウマの影響を大きく感じながら生き続けなければなりません。記憶を抱えては生きていくことができないほど破壊的な場合には,他の人格が被害の記憶を持ち続けてくれていることが,生き延びる術なのです。
解離ができたからこそ生き延びることができたのであれば,それは能力であり,ゼロにしてしまう必要はないはずです。
そこまでのトラウマ経験のない大多数の人にとっては,複数の人格やパーツで居続けて生きていく必要があるということを理解するのは難しいかもしれません。「1つの体には1つの人格であるというのが本来の姿だからその状態に戻そう,それが理想的な回復だ」と考えてしまうかもしれません。しかし,恐ろしい体験の記憶を体や脳に埋め込まれて生きていかなければいけない場合は,生き方が異なります。トラウマの治療が進むことによって,結果として自然と人格の統合が起きることはあります。しかし,統合自体を目標としてしまうことは,内部の人格や生き延び方の否定ともなりますし,達成することが困難すぎる目標に感じ,大きな反発や無力感などにつながり,逆効果になることを理解していただきたいと思います。
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