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はじめに
サイコオンコロジー(psycho-oncology)は,がん告知を含む社会の動向に大きく影響を受けてきた。米英では,1960年代のホスピス運動を背景にがん患者の生存期間だけでなくquality of life(QOL,生活の質,人生の質)が重要な健康アウトカムとして認識され始め,1970年代後半に原則,本人にがん告知を行う医療が確立した。1977年,米国メモリアル・スロン・ケタリングがんセンターにサイコオンコロジー部門は誕生した。当時,日本ではがんの事実を家族にはすべて伝え,患者には全く伝えないといった状況であったが,問題意識を持った少数の医師と看護師が中心となって日本死の臨床研究会(1977年)を創設し,その後国際学会の呼びかけに応じて日本サイコオンコロジー学会(1986年)は誕生した(表)17)。
国立がんセンターは,戦後に結核,肺炎,脳卒中が激減する中,がんの突出を見越して,1962年に創立された。がんは1981年に死亡数の第一位に躍り出たが,1992年調査でがんの告知は約20%であった。同年開設した国立がんセンター東病院が原則本人にがん告知を行う初の施設であった。1995年,精神腫瘍学研究部の開設後,大学などでは取組み難い長期的な施策的研究,診療,研修を行ってきた。
2006年にがん対策基本法が成立し,がん診療連携拠点病院(400),地域がん診療病院(36)が指定されていった。以後,この新指定制度の要件に従いサイコオンコロジーを含む質の高いがん医療が推進されたことに特徴がある。また,標準的がん治療ガイドラインの普及に伴い,副作用対策の標準化も喫緊課題となり,日本がんサポーティブケア学会(2015年)が創設された。ほぼ同時に,ガイドラインの礎をなすエビデンスが弱い支持療法,緩和ケア,サイコオンコロジー領域の標準治療確立を目的に,恒常的な臨床試験体制構築を目指す,J-SUPPORT(日本がん支持療法研究グループ.http://www.j-support.org/)が創設された(2016年2月)。
本稿では,特集のねらいに従い,サイコオンコロジーの約60年のあゆみとともに(表),サイコオンコロジーは精神科臨床から何を学び,何を継承し,そして何を改革したか,に焦点を絞って論ずる。
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