Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
近年になって,一般病院の入院患者層は大きく変わった。超高齢社会を迎えて入院患者は高齢化の一途を辿っており,認知者の患者も増えている。また,がんで入院する患者も増加傾向にあるが,これらの患者はいずれもせん妄の発症リスクが高いと考えられる。このように,一般病院では入院患者の大半がせん妄ハイリスクであり,せん妄の発症が後を絶たないことから,医療スタッフは日夜せん妄の対応に追われていると言っても過言ではない。
せん妄でみられる不穏や幻覚・妄想などの精神症状は,言わば精神科医の守備範囲である。また,治療薬として用いられる抗精神病薬によく精通しているのは精神科医であるため,医療現場からはせん妄に関する精神科医への期待がきわめて大きい。
このようなニードの高まりに対して,精神科医がいかに応えるかは大きな課題である。一般病院の1割程度にしか精神科常勤医が配置されていない24)ことを考慮すると,中・長期的なプランとしてはリエゾン精神科医や精神腫瘍医(サイコオンコロジスト)を増やし,一般病院やがんセンターなどにおける精神科診療を充実させることが挙げられる。ただし,すべての病院に精神科常勤医を配置するのは現実的に無理がある。そこで,まず精神科医ができることは,身体科医に対する教育的なかかわりではないだろうか。
そもそも,せん妄の直接的な原因は身体疾患や薬剤,手術であるため,一般病棟や緩和ケア病棟,ICU(集中治療室)などで発生することがほとんどである。また,抗精神病薬による薬物療法はあくまで対症療法に過ぎず,主たる治療は身体疾患の治療や原因薬剤の除去である。したがって,身体科医が主治医としてせん妄治療をリードする立場にあるため,「身体科医がせん妄に対して適切にアプローチできるようにサポートすること」こそが,精神科医に求められる役割ではないだろうか。そのためには,精神科医が非常勤医として一般病院にかかわったり,学会や研究会などで身体科医と接点を持ったり,さらには初期・後期研修医を指導したりする際などに,実践的な知識を伝えていくことが重要と考えられる。
本稿では,せん妄に関して「精神科医として何を知っておく必要があるのか」「精神科医として何を身体科医に伝えればよいのか」という視点で,がん患者にかかわる精神科医の立場から最新の知見も含めて概説する。
Copyright © 2018, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.