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はじめに
歴史的にみると1950年頃までは,子どもには本格的なうつ病は存在しないという考えが多くの精神科医の共通認識であった。子どもには自責感や罪業感を形成するほどの超自我が育っていないため,大人と同じうつ病は存在しないという精神分析学の考え方が主流であったからである。
しかし,精神分析家の中でも,1940年代から米国のRene Spitz4)は乳児院で育てられた乳幼児を観察し,その一部が社会的かかわりから引きこもり,体重が減少し,睡眠障害を持つこと—それは今日では喪失体験の後に抑うつ的となる状態と酷似している—を見出し,その状態を「依存抑うつ(anaclitic depression)と呼んだのである。また,1950年代から英国のJohn Bowlby1,2)は,子どもと母親の結合と分離に関する一連の研究を行い,母親と子どもが長期間あるいは永久に別れる体験をすると,乳児の反応は「抗議」と「絶望」の段階を経て,「離脱」の段階へ移行することを見出した。その過程において,母親との別離によって子どもに抑うつ状態が引き起こされることが認められた。このように乳児においても悲嘆(grief)と喪(mourning)という大人と同じ一連の心理過程が認められると考えたのである。
本稿では,Spitzの論文「Anaclitic Depression:An Inquiry into the Genesis of Psychiatric Conditions in Early Childhood, Ⅱ」4)を中心に紹介したい。さらに,Bowlbyの著作のいくつかを参考にして,母子分離の体験が子どもの情緒にどのような影響をもたらすのかについて検討し,子どものうつ病との関係について考察したい。
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