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はじめに
すべての医学領域において,症状の定量化は治療を行う上でも,研究を行う上でも最重要事項の一つである。現代医学において病勢を表す定量可能なバイオマーカーは多く開発され,日常臨床においても利用されている。挙げれば枚挙に暇がないが,血算,X線写真,腫瘍マーカー,抗体価,CT,MRI,シンチグラフィなど,多くの診療科で重症度の評価に用いるものが多数存在する。
精神科領域においてはこのようなバイオマーカーが圧倒的に不足している。研究段階のものは存在するが,実用されているものはほとんどない。このため一般に精神疾患の重症度を表現するのに用いられているのは,種々の評価尺度である。特定の精神疾患を対象として精神症状全般の程度を評価するもの,精神疾患全般を対象として精神症状全般の程度を評価するもの,特定の症状の程度を評価するものなど数多く存在するが,これらには妥当性,信頼性などに問題が含まれていることも少なくない。何よりも,多くの評価尺度を用いるには一定の時間を要し,多忙な臨床現場で利用するのは困難である。
このように,疾患の病勢を反映し日常臨床で使用可能なバイオマーカーが不足していること,評価尺度の利用に限界があることは,臨床上,多くの障害を引き起こしている。たとえば,治療開始基準が不明確になること,また,治療反応の定量化が困難になることから,標準的な治療が行いづらくなる。曖昧な重症度評価(あるいは治療反応の評価の難しさ)は,新薬開発のための治験を失敗に終わらせ,多くの製薬企業が精神科領域から撤退する事態にまで発展している。
近年,情報通信技術(information and communication technology;ICT)やそれらを通じて得られる膨大なデータを解析する技術の発展がめざましい。精神科領域においても,このような技術を使って先に述べた重症度評価の困難さに対処する試みがなされるようになった。一つのアプローチとして,遠隔医療技術,具体的にはテレビ電話を用いた中央評価がある。さらに一歩先のアプローチとしてウェアラブルデバイスや機械学習を用いた症状の定量化などの試みがある。
本稿では,まずレーティングスケールの問題について述べた後,遠隔医療を用いた中央評価について述べる。その後,ウェアラブルデバイスや機械学習を用いた新しい試みについていくつかの研究を紹介する。
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