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はじめに
認知療法・認知行動療法(以下,認知行動療法)とは,私たちの気持ち(感情)が認知,つまりこころの情報処理のプロセスの影響を強く受けることに注目して,ストレスを感じたときの認知に働きかけて問題解決を手助けする目的で開発された精神療法(心理療法)である。
認知行動療法は1960年代初頭にAaron T. Beckによってうつ病の治療法として提唱され,実証的な研究が積み重ねられた結果,1980年代後半から米英を中心に,うつ病や不安障害/不安症,さらにはその他の精神疾患の治療法として用いられるようになった。そうした流れの中,わが国の精神医療で認知行動療法が注目されるようになったのは2000年代に入ってからのことであるが,最近ではうつ病や不安障害などの精神疾患の治療としてはもちろんのこと,日常生活でのストレス対処法としても広く用いられるようになっている。それは,認知行動療法で用いられているスキルが,私たちが日常生活の中でほとんど意識せずに使っているストレス対処法を分かりやすくまとめたものだからである。
しかし,広く用いられるようになっているだけに,認知行動療法が誤解されたり誤用されたりすることも少なくない。その最大の要因は,認知にばかり目を向けすぎて,悩んでいる患者をひとりの人としてみることができなくなっていることにある。そのために,認知ないしは考え方を変えさせることに汲々として,柔軟に問題に取り組む力を育て活かすという認知行動療法の基本的なアプローチが置き去りにされてしまうことになる。
それは,認知行動療法について誤解しているためだけでなく,認知行動療法的面接の進め方についての情報が提供されていないためでもある。そのために認知の修正ばかりを練習したりマニュアル通り面接を進めたりするなど硬直化した対応に陥っている治療者も少なくないように思える。しかし,今回は柔軟なアプローチの基礎となる認知行動療法の基本型を紹介するだけの誌面の余裕がないために,それは拙著『保健,医療,福祉,教育にいかす
簡易型認知行動療法実践マニュアル』を参考にしていただくことにして,本稿では,わが国における認知行動療法の現状を確認しながら,質が担保された認知行動療法を提供していくための課題について論じることにしたい。
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