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はじめに
わが国における不安障害の12か月有病率は5.3%,気分障害の12か月有病率は3.1%と総じて高く17),両疾患は心血管疾患や自殺の危険因子でもある39,47)。そのため,両疾患に対する精神医療サービスの普及は重要な課題である。
これまで,不安障害と気分障害の中のうつ病性障害の治療において,受療可能性という点から,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor;SSRI)をはじめとした抗うつ薬を用いた薬物療法が治療の中心的な役割を担ってきた。しかしながら,米国のNational Institutes of Health(NIH)による4,000名を超えるうつ病患者を対象としたSTAR*D研究においては,抗うつ薬で治療反応を示すうつ病患者(うつ症状が治療開始時の50%以下)の割合はおよそ50%,寛解率になるとおよそ30%にすぎないことが示されている50)。このような背景から,抗うつ薬を用いた治療の限界が指摘され,精神療法が注目されつつある。この傾向は,各国の治療ガイドラインにも反映され,英国のNational Institute for Health and Clinical Excellence(NICE)の不安障害・うつ病性障害の各治療ガイドラインにおいては,抗うつ薬に加え,精神療法の1つである認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy;CBT)の併用またはCBTの単独使用が推奨されている36,37,38)。CBTとは,認知・感情・行動的な問題を治療標的とし,学習理論と認知理論に基づく諸技法を用いて,不適応的反応を軽減するとともに,適応的な反応の形成を促進させる構造化された精神療法である。英国では,前述したNICEガイドラインに則り,うつ病患者に対して薬物療法とCBTを併用した大規模臨床試験が実施され,その結果が2013年にLancetに報告された(CoBalT研究)52)。このCoBalT研究は,英国の73施設合計469名の薬物治療抵抗性のうつ病患者を対象に実施され,通常治療(薬物療法と医師の診察)にCBTを併用することで,通常治療のみの場合と比べ,抑うつ症状の改善がみられること,そしてCBTの併用により治療反応性は3.26倍にも昇ること(通常治療群に対するCBT併用群の調整後オッズ比)が報告されている。
これまでCBTは,不安障害やうつ病性障害に対してその有用性が示されてきたものの11),各疾患に対して適用可能なCBT技法は異なり,疾患ごとの特異的な治療として発展してきた。しかしながら,最近では疾患の特異性だけでなく,複数の疾患の共通性をターゲットとしたCBT(診断横断的CBT)が注目されつつある。そこで本稿では,不安障害とうつ病性障害を対象とした診断横断的CBTの現状と今後について述べる。
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