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はじめに
世界保健機関(WHO)の疫学調査によると,わが国におけるDSM-Ⅳ診断による大うつ病性障害の12か月有病率は2.2%,生涯有病率は6.5%と報告されている2)。欧米諸国に比べると有病率は低いものの,一般住民の16人に1人が生涯に一度うつ病を経験していることになり,うつ病は一般によくみられる疾患であるといえる。また,厚生労働省が3年ごとに全国の医療施設で行っている「患者調査」によれば,気分障害の総患者数は近年増加傾向にあり,2008年には100万人を超えたと報告されている。さらに,2005年の日本におけるうつ病による社会的損失は2兆円を超えると算出され11),うつ病の社会へのインパクトは甚大で公衆衛生上の大きな問題となっている。
うつ病に対する治療として,国内外のうつ病の治療ガイドラインでは,薬物療法と並んで,認知行動療法が治療選択の1つとして推奨されている1,9,10)。この認知行動療法(cognitive behavioral therapy;CBT)とは,患者の物事の捉え方(認知)や行動のパターンに働きかけを行うことにより抑うつや不安の症状緩和を図っていく短期の精神療法である。たとえば,うつ病では,自己・世界(周囲)・将来に対して極端な悲観的な認知が,うつ病の持続要因になっているという理解のもと,この悲観的で現実と乖離した思考過程を注意深く検討を進めていくことによってつらい気分を和らげ,問題解決を図っていくものである。また,非適応的行動パターンに対しても注目し,行動変容を促し,問題解決を図っていく。
本稿では,うつ病の認知行動療法に関して,わが国のうつ病治療ガイドラインにおける位置付けやわが国からのエビデンス,そして厚生労働省のマニュアルに基づくうつ病の認知療法・認知行動療法の実際ならびに日本の医療現場で認知行動療法を実施する際の留意点について概説する。
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