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はじめに
ADHD(attention deficit/hyperactivity disorder)の不注意や衝動性の症状は,遂行機能の問題が主に関連するといわれてきたが,近年,情動制御の問題がADHDの症状に関連していることに注目が集まっている。DSM-5においては,診断を支持する関連特徴に「欲求不満耐性の低さ,易怒性,気分の不安定性が含まれるかもしれない」と記載されているが,情動制御の問題があることが診断基準には含まれていない2)。しかし,Shawらは,近年の情動制御の問題に関する研究のメタアナリシスにより,ADHDの情動の制御の問題は,ライフスパンを通じて重大な障害の原因となっているとしている25)。
情動制御の問題を議論する場合に,情動の制御の不適切さとは何かを定義する必要がある。たとえば,Thompsonによれば,目標達成のために感情的な刺激に対して柔軟に選択し,見積もる能力のことである(研究によって定義が異なる場合があり,注意が必要であるが,ADHDの研究においてこの定義が引用されていることが多い)30)。情動制御の問題については,DSM-5のどのカテゴリにもあてはまらないものであり,特定の疾患を指すものではなく,次元的なものと捉えられている。近年ADHDに関しても,研究が積み重ねられてきており,さまざまなモデルが検討されてきている。本稿においては,ADHDに情動制御の問題がどのくらい関連しているか,また,生物学的基盤はどのくらい解明されているか,現在までに提案されているモデルについて概観し,ADHDの情動制御の問題への治療についても触れたい。
なお,本稿における「情動」および「感情」という言葉は,英語原著においては“emotion”であり,同じ英単語である。
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