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はじめに
今日のADHD(attention deficit/hyperactivity disorder)に相当する症例についての報告は18世紀末の論文が知られているが5),本格的な学術的な論文としては,英国のStillらによる報告に始まると言われている11)。Stillは,脳炎や脳腫瘍など脳の器質的疾患の既往を持ち,多動や衝動性を示して行動面で抑制が欠如し,「環境への適切な認知」,「道徳意識」に障害を示す症例を報告した。こうした症例は後にStill病と呼ばれることとなった。この後20世紀の初頭において,脳炎の後遺症としてStill病と同様の症状が少なからず認められることが報告された。こうした流れの中で,ADHDは脳のなんらかの器質的な障害を背景に持つと考えられるようになった。つまり,当初の出発点としては,ADHDは生来のものではなく,ある意味「後天的」な疾患であるとみなされていた。
このような考え方を引き継いだのが,MBD(微細脳損傷,微細脳機能障害)の概念である10)。この考え方は1980年代ごろまでは広く認められたものであり,今日のADHDはMBDの中に含まれていた。MBDは,周産期などにおける微細な脳障害が原因で,幼少時より,多動・衝動性,不注意や学習面での障害,神経学的な軽度の異常(ソフトサイン)を示すものと定義された。ちなみに,今日の「学習障害」についてもMBDに含まれており,ADHDと区別がつけられていなかった。ここにおいても,ADHDはある種後天的な疾患であるとみなされていたわけである。この「周産期の障害」という仮説は,「親の養育の問題」と並んで,精神疾患における原因仮説としてしばしば取沙汰されるものであり,統合失調症においても,数多くの議論が行われてきた9)。ADHDにおいても,産科的合併症が高頻度であることは示されているが7),その病態における意義については現在まで明確な結論は得られていない。
このように,ADHDは明確なエビデンスがないまま後天的な成因を持つ脳の器質的な疾患であると長く信じられてきたが,近年の画像診断学的研究において,かつてのMBDの概念はほぼ否定されている。このため,最近の診断基準においては,臨床症状から病名が付けられるようになっている。またADHDの成因については,ノルアドレナリン,ドパミンなどの神経伝達物質の機能障害説が提唱されているが,この点についても確定的な証明は得られていない。こうした中で,ADHDの発症には遺伝的な要因の関与が大きいことが明らかにされ,ADHDは生来のものであるという考え方が最近の主流であり,DSMなどの診断基準においてもそのような想定に基づいて記載がされている。
ところが最近になり,ADHDには従来の幼児期,小児期から症状発現がみられるものに加えて,思春期以降,時には成人になって発症する「遅発性」の一群があるという報告がいくつかの研究グループから発表された。本稿においては,この小児期のADHDと成人期のADHDの連続性の問題について,最近の研究報告を中心に検討を行いたい。
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