オピニオン 精神科医にとっての薬物療法の意味
身体は認知・意味生成の源である—身体化された心について
内村 英幸
1
1福岡心身クリニック
pp.136-138
発行日 2017年2月15日
Published Date 2017/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405205324
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はじめに—心でも物でもある身体
日常臨床において,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI),特にフルボキサミンの登場は,精神療法のみでは抵抗の強い対人恐怖症・社会不安障害(SAD)や強迫性障害(OCD)などの神経症の症状を和らげ,時には劇的に症状を改善し,精神療法的アプローチを容易にした。また,第二世代の特徴的な非定型抗精神病薬の登場によって,統合失調症の治療も以前より対応しやすくなり,社会心理的アプローチが容易になってきたと思う。
他方,脳科学において,Rizzolattiらの1996年にかけての一連の研究による「ミラーニューロン」の発見は,認知神経科学に大きなインパクトを与えた。自他共通癒合ミラー神経回路と自他分離メンタライジング神経回路の拮抗作用,さらに,基本的安静時自己デフォルトモード神経回路(DMN:心の迷走,mind wandering回路)と課題実行系神経回路(「今,ここ」に集中)の拮抗的作用などが解明されてきた2,3,6)。自己と他者・環境との関係性の認知神経科学,自己神経科学の研究は,近年著しく発展してきており,「心と脳」の媒体である「生きた身体」すなわち,心でもあり物でもある両義的身体をふまえて,薬物療法と精神療法について論ずることが不可欠になってきた。
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