オピニオン 精神科医にとっての薬物療法の意味
精神科薬物療法の限界
井上 猛
1
1東京医科大学精神医学分野
pp.132-134
発行日 2017年2月15日
Published Date 2017/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405205323
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はじめに
1950年代から統合失調症,うつ病,不安神経症,不眠に対するさまざまな治療薬が発見された。その後,原型となる薬物をもとに,より特異的な作用機序を有し,副作用がより少ない薬物が多く開発され,発売されてきた。治療薬がなかった50年以上前に比べると精神科の治療は大きく進歩してきたといえるし,隔世の感がある。現在では,薬物療法と精神療法,リハビリテーション,ケースワークなどを総合した精神科治療が行われている。筆者は,精神科治療を展開する上で薬物療法はあくまでも回復へのきっかけを作ってくれるものであると認識している。したがって,薬物療法だけに頼らずに,常にその他の多くの治療法導入の可能性がないか,さまざまな治療法の組み合せができないかを考えるようにしている。つまり,精神科薬物療法はあくまでも精神科の総合的治療の一部であると思う。
筆者は約29年間,臨床的および基礎的な精神薬理学を専門として研究してきた。このような経歴の筆者がどのように精神科薬物療法を考えているかを,私見として本稿で紹介したい。なお,さまざまな精神疾患のうち,主にうつ病を例に薬物療法の役割を論じたい。
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