オピニオン 精神科医にとっての薬物療法の意味
薬物療法は医師と患者の協働作業である
中村 敬
1,2
1東京慈恵会医科大学附属第三病院精神神経科
2森田療法センター
pp.120-122
発行日 2017年2月15日
Published Date 2017/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405205320
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はじめに
薬物はその薬理作用によって投与された患者の心身の状態に変化をもたらす。だがこうした説明は抽象的なものに過ぎず,実際には薬理作用だけが単独に成立するわけではない。現実の薬物療法では(急性精神病状態を除いて),患者によって語りだされた病歴や体験をもとに医師が投薬の必要性を判断し,患者との対話の中で特定の薬物を選択する合意が形成される。そして処方された薬物を患者が(ふつうは内服の形で)摂取し,その結果を医師に伝えることによって処方の調整=合意の再形成が行われる。このように薬物療法とは医師と患者の間で不断に継続される行為であり,治療関係を土台にした協働作業に他ならない。
それゆえ精神科医には,操作的診断と薬物療法のアルゴリズムばかりでなく,投薬という行為が患者に与える心理的意味や治療関係に及ぼす影響にも目を向け,治療的関わりの全体から薬物療法をとらえ直すことが求められている。以下,薬物と治療関係の相互的影響を考え,服薬する患者の心理を踏まえた対応について私見を述べることにした。
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