オピニオン 精神科医にとっての薬物療法の意味
精神科医にとって薬物療法とは
加藤 忠史
1
1理化学研究所脳科学総合研究センター精神疾患動態研究チーム
pp.108-109
発行日 2017年2月15日
Published Date 2017/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405205316
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はじめに
「精神科医にとっての薬物療法の意味」とのテーマをいただいたが,精神科医が患者のために存在する以上,精神科医にとっての薬物療法の意味は,患者にとっての薬物療法の意味から自ずと導き出されるはずであろう。
では,患者にとって治療薬とは何であろうか? もちろん,病からの回復のための「道具」に他ならない。ただ,患者は,ほとんどの場合,その道具を自らの手で入手することができず,どの道具が適切であるかも分からない。患者が回復するためには,多くの場合これが必須であるにもかかわらず,である。自らにとって必要であるにもかかわらず,自らその種類を選択することも,必要性の判断もできず,その入手も制限されているとは,ずいぶんと扱いにくい道具ではないか。
いずれにせよ,精神疾患の治療薬が医師の処方なしには入手できない以上,患者にとって,薬物という道具を手に入れることも,精神科医を訪れる理由の一つとなり得ることになる。しかし,その理由が医学的に妥当とは限らない。筆者が研修医の頃,どうしても××という薬が欲しい,という患者に対して,覚えたばかりの精神薬理学の知識を振りかざし,その薬はこういう理由であなたには合いません,とか,そのような薬は処方できません,などと押し問答したことを思い出す。
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