オピニオン 精神科医にとっての薬物療法の意味
精神科医にとっての薬物療法の意味
大野 裕
1
1一般社団法人認知行動療法研修開発センター
pp.112-114
発行日 2017年2月15日
Published Date 2017/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405205318
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はじめに
薬物療法は,精神科医にとって諸刃の剣であると私は考えている。それは,薬物療法が効果的であり有力な治療ツールであるからであり,だからといって何でも解決できる万能薬では決してないからである。だからこそ,薬物療法のあり方は,精神医療のあり方を考える貴重な手がかりにもなる。
少し前になるが,私はアメリカ精神医学会の『精神疾患の診断統計マニュアルDSM』の功罪について論じた書籍2)を上梓した。この本を書きたいと思ったのは,わが国でも,そして欧米でも,精神医学を追究するあまり精神医療が置き去りにされているという印象を持つようになったからである。
ここで私が精神医学と呼ぶのは,精神疾患を科学的に解明し治療に生かそうとする医学の一分野としての概念である。一方,精神医療というのは,精神疾患を持つ人をひとりの人として理解し,その人らしく生きていけるように手助けする治療的アプローチを主体とした概念である。
薬物療法という効果的な治療ツールを精神科医が手に入れたことによって,精神疾患の診療の質は大きく向上した。それもあって米国を中心に精神疾患は脳の病であるという考え方が優勢になり,脳科学の視点から精神疾患を解明しようとする研究にも力が注がれることになった。それ自体はたしかに意味のあることだし重要なことではあるが,そこには,人を診るという精神医療本来の役割が希薄になってくる危険性がつきまとっている。
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