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世界の認知症患者数は現在4,700万人と推計され,2030年には7,500万人を超えると予想されている。認知症は今や世界共通の喫緊の課題であり,2013年12月にはロンドンでG8認知症サミットが開催され,各国が協力して取り組むことが確認された。日本では,2014年11月に行われた認知症サミット後継イベントにおいて,内閣総理大臣より厚生労働大臣に認知症施策を加速させるための戦略策定の指示が出され,2015年1月27日,厚生労働省はこれまでの認知症施策推進5か年計画(オレンジプラン)に変わる新戦略として認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)を策定した。その基本的な考え方は,「認知症の人の意思が尊重され,できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指す」こととされ,そのための具体策として,①認知症への理解を深めるための普及・啓発の推進,②認知症の容態に応じた適時・適切な医療・介護等の提供,③若年性認知症施策の強化,④認知症の人の介護者への支援,⑤認知症の人を含む高齢者にやさしい地域づくりの推進,⑥認知症の予防法,診断法,治療法,リハビリテーションモデル,介護モデル等の研究開発及びその成果の普及の推進,⑦認知症の人やその家族の視点の重視,という7つの柱が設定されている。
認知症の専門医療に携わる精神科医として,いずれの柱についても果たすべき役割はあるが,特に②の役割は大きいと思われるので自らの研究成果を交えて検討したい。その基本的な考え方は,「容態の変化に応じて医療・介護等が有機的に連携し,適時・適切に提供することであり,そのために早期診断・早期対応を軸とし,行動・心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia;BPSD)や身体合併症等が見られても,医療機関・介護施設等での対応が固定化されないように,最もふさわしい場所で適切なサービスが提供される循環型の仕組みを構築する」こととされている。この医療・介護などが連携した循環型の仕組みを構築するために認知症の専門医療に期待される役割については,昨年厚生労働省老人保健健康推進等事業の一つとして「認知症の人の行動・心理症状や身体合併症対応など循環型の医療介護等の提供のあり方に関する調査研究事業」において検討され,筆者も作業部会委員として参加させていただいた。特に「BPSDへの適切な対応」については,精神科医の果たす役割が期待されているが,課題も多い。
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