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はじめに
児童分裂病とされる群から,Kanner Lによって自閉症とされる症例が取り出されたのは1943年であった。現在の知的障害を伴う自閉症とされる例が中心であった。その翌年には,Asperger Hによって,自閉性精神病質が報告され,現在の知的障害を伴わない自閉症に近い症例が報告されていた。前者を中心に,自閉症の親が着目されて,その後の自閉症概念は広がりをみせ,精神分析的考え方から,その後の〝心因論〟につながったと考えられる。「自閉症児の親とそうでない親の子育てには,大きな違いはない」と言う報告をして,心因論を医学的に否定したのはRutter Mらであった4,5)。1970年代になり,自閉性精神病質も自閉症スペクトラムの一角であると考えたのは,Wing Lらであった。多くの精神疾患が,著名な研究者らの独自の概念で語られ,普遍性が乏しかった診断概念に対して作られたのが国際的診断であった。診断基準は客観的な数値に基づくものではなく,あらかじめ決められた診断基準を満たすか否かで決められている(操作的診断基準)。
日本国内で使用されている国際的な診断分類は2つある。WHOによる国際疾病分類(International Classification of Diseases;ICD)のFコードと米国精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders;DSM)である。1992年に公表されたICD-10の中で初めて広汎性発達障害,アスペルガー症候群,広汎性発達障害他に分類できないもの,が登場した。1994年にDSM-Ⅳが公表され,広汎性発達障害,アスペルガー障害,特定不能の広汎性発達障害などが公表された。以来19年ぶりに,2013年5月にDSM-5(第5改訂版)が公表され,2014年6月に日本語版が発売された。この中で,広汎性発達障害は自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorders;ASD)とほぼ同じ概念に変わり,下位分類はなくなり,該当項目を特定することになった。診断基準項目の内容も組み換えが行われ,感覚の特別性が新たに追加された。DSM-5が発売されても,ICD-10は使用されており,ICD-11が公刊されるまでは,2つの異なる診断基準が並行して使用されると思われる。
ICDについては,2016年に1992年以来の改訂が行われ,第11版(ICD-11)が公表される予定である。日本語版が発売されるまでにまだ数年必要と思われるが,その内容はDSM-5に近づくと推測されている。この10〜20年の間で診断基準の変更はあったが,歴史的経過では「自閉性障害」,「アスペルガー障害」,「特定不能の広汎性発達障害」,「自閉スペクトラム症」などと診断された群を念頭に成人像を考えてみる。
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