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はじめに
周産期における精神科的な問題については,妊娠前から精神疾患に罹患している場合と,妊娠中もしくは出産後に新たに精神疾患を発症する場合の大きく2つに分類される。前者は精神疾患合併妊娠として,妊娠前からの精神症状のコントロール,適正な薬物療法,周産期特有の精神症状の変化への対応,また,養育機能の評価や養育支援などを進めていくための多職種による連携が求められる。後者は産後うつ病への対応が中心となるが,妊娠期から精神症状を呈することが少なくないため,産科スタッフによる早期発見,早期支援により,速やかな精神科医療につなぐためのシステムが必要とされている。
精神疾患合併妊娠には,気分障害,神経症性障害,統合失調症が一般に多くみられるが,それぞれの疾患の特性,個々の重症度,さらには,中心となる治療薬も異なるため,疾患ごとの評価や対策を要する。妊娠後の発症の精神科的な問題に関しては,特に産褥期に顕在化してくることが多く,マタニティブルーズ,うつ病,産褥精神病などに大別されている。重症度や頻度からは,うつ病が最も重要視され,自殺予防対策が課題となると考えられる。なお,これら精神疾患に対する治療は,多くは外来での精神療法や薬物療法を継続するが,希死念慮が切迫している場合や幻覚妄想状態では入院を検討することになる。
昨今の産科医の積極的な活動により,妊娠期からのメンタルヘルスへの関心の高まりがあり,産科スタッフによる妊産婦への早期介入の動きがみられ始めている。ただ,東京都内では,一部の総合病院精神科に依頼が集中している状況があり,いくつかの病院からは,緊急性を要する症例だけでなく精神科治療を必要としない症例まで含まれており,対応に苦慮しているという声も上がってきている。
このような背景のもと,本稿では,周産期の各時期におけるリエゾン活動について症例を提示しながら概括し,続いて現在のリエゾン活動の課題と今後のあり方を東京都の精神科診療所・精神科病院,分娩取扱施設を対象としたアンケート調査をもとに,国内外の情報も交えつつ論じる。
なお,症例については,患者本人に承諾を得た上で,匿名性を保持するために論旨に影響しない範囲において細部に若干の変更を加えた。
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