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はじめに
周産期の女性には,心理,社会,生物学的な側面で大きな変化が生じる。妊産婦は,急激な変化に適応しながら心と体のバランスをとる。家族や地域が作り出す生活環境も心身のバランスに大きな影響を及ぼす。わが国では,少子化の傾向が進んでいるが,女性の社会参画に伴う晩婚化により,妊娠・出産を迎える時期が幅広くなっており,女性の人生にとっては自由度も増え好ましい社会になってきた。
一方で生殖医療技術の進展により不妊治療後の妊娠や出産に伴う不安,低出生体重児の増加による母子分離の影響や母子相互作用の問題,養育機能の障害などを含めた精神医学的な問題も増えてきた。望まない妊娠や若年妊娠は家庭内暴力との関連も大きく,これらの若い女性は,心理社会的な脆弱性を含んだ精神医学の治療の対象ともなり得る。心理・精神医学的なケアや治療が適切に行われないと,次世代の子どもの長期的な予後にも否定的な影響にもつながる。欧米では地域に根ざした養育支援と子ども虐待予防プログラムがあり14),これはKempeが見出した虐待理解と,その発生機序に基づいて編み出した支援方法と周産期からの保健師の家庭訪問による発生予防の提唱をシステム化したものである。支援の対象となる周産期の親と子どもは,メンタル面のハイリスク要因を持つが,ハイリスクという言葉を使用せず,「援助すべき対象in need」と位置付け,支援の理念を明確に打ち出している。子ども,親,家族とその生活環境の特徴によって,ニーズを見極め,多様な専門職による介入の連携をとっている。
周産期のメンタルケアの重要性については,2000年に開催された国連ミレニアムサミットでも唱えられており,妊産婦の健康の改善も到達目標の一つであった。世界保健機関(WHO)は母親の健康の改善が達成されるには,妊産婦の精神保健の問題に注目し既存の母子保健プログラムに女性へのメンタルヘルスケアを統合する必要性を指摘している16)。このように,周産期医療の中では,いま現実にあるニーズからみても,妊産婦の精神保健の今後のあり方を示している方向性の中でも,精神医学の果たす役割は重要である。
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