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はじめに
精神科医療は入院治療から地域での生活という流れと,薬物療法の目覚ましい進歩により,精神疾患を持つ女性の恋愛,結婚,妊娠,出産がより可能となり,彼女たちと家族や周囲に対する心理教育も行われるようになっている1)。青年期に発症し慢性の経過を取る精神疾患の軽症化と,リカバリーという概念が広まる中で,女性患者が人生の選択肢を当たり前に持つことができるための教育的取り組みや地域での支援が始まっている。一方で,今日のストレスの多い社会背景の中で女性の精神科診療所への受診が増加し,男女比は2:1となっている。その中でも,不安障害とうつ病圏の受診者は全体の70〜80%を占めている。これに連動して妊娠可能年齢の受診者が多くなっている。
しかし妊娠・出産への精神科医の対応は無策ともいえるのが現状である。母子保健の取り組みの中では,産後うつ病の啓発教育と産後うつ病スクリーニングの講習が重ねられ,出産後の保健師などによる母子訪問で彼女たちへのケアと育児支援の実践がなされている3)。この流れの中で,精神科医は,他の周産期医療や保健に関わるスタッフと協同して,専門家としての役割を遂行できていないのが現状である。2015年第111回日本精神神経学会学術総会のプログラムの中で妊娠,出産に関するシンポジウムと発表があり,「まずは妊娠中の患者が来院しても断らないという姿勢を持つように」という言葉があった。しかし筆者の経験からかえりみると,診療所で毎日診察している外来者から妊娠の報告を聞くや消極的な治療に傾き,総合病院への転院を考える苦い経験をしてきた。治療継続に苦労している上に遠方への転院は治療中断につながることが予想されるが,妊婦への薬物療法などによる治療は,催奇形性,胎児毒性,母乳への安全性などが頭をよぎる。そのため,治療者として確実な答えを持たないままに,この時期に積極的に関わることを避けてきた。筆者も拝聴する機会を得た産後うつ病の講演会などを契機に,筆者のような精神科クリニックの医師が周産期のメンタルヘルスに関わる地域のスタッフと連携する方法や連携の広がりが少し実感できるようになった。その中で筆者が見えてきた内容も含め,これまでの活動について報告する。
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