書評
—Victor Pace,Adrian Treloar,Sharon Scott 編 武田雅俊 監訳,小川朝生,篠崎和弘 他訳—認知症の緩和ケア—診断時から始まる患者と家族の支援
池田 学
1
1熊本大学大学院生命科学研究部神経精神医学分野
pp.770
発行日 2015年9月15日
Published Date 2015/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405204992
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本書を手にしたとき,どうしても注目してしまうのは,そのタイトル「認知症の緩和ケア」であろう。緩和ケアというと,ほとんどの医療関係者は「がん患者の緩和ケア」を思い浮かべるはずである。では,認知症者に合併した悪性腫瘍などの生命を脅かす疾患による痛みや心理社会的問題だけを取り扱った本かと思いきや,その副題は「診断時から始まる患者と家族の支援」とある。原著の本題はDementia,副題はFrom advanced disease to bereavementであるから,直訳ではない,この邦題から訳者らの明らかなメッセージを読み取ることができる。
熊本で開催された第32回日本社会精神医学会において,名古屋市立大学の明智龍男教授がオーガナイズしてくださった「がん患者のこころとからだを支える」という緩和ケアに関するシンポジウムで,本書の訳者の一人である小川朝生氏の「高齢がん患者のこころを支える」という講演を拝聴して,進行期の認知症医療と多くの共通点があることに驚き,近い将来に進行期の認知症医療を緩和ケアの観点から捉え直してみたいと明智先生と語り合ったことを思い出した。本書でも詳しく述べられているように,痛みのコントロール,終末期の合併症,総合診療的なアプローチの重要性,看取りの場の選択,などが両者の共通点として挙げられると思われる。
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