- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
DSM-Ⅳ-TRでは「通常,幼児期,小児期,または青年期に初めて診断される障害」としてグループ化されていた児童思春期の疾患は,疾患の特性ごとに発症年齢に関わらず類似した診断群に移され再編成された。DSMでは従来,神経発達症(神経発達障害)という概念は存在しなかった。しかし,DSM-5では新たに「neurodevelopmental disorders(神経発達症群[神経発達障害群])」といった発達に関連した新たな枠組みが作られた。この点は精神科診断に新たな視点を加えたという点で大きな改訂であり,児童思春期の臨床のみならず精神科医療そのものに大きなインパクトを与えることが予想される。また,類似の症状を持つ疾患は,同一のグループにまとめられることになった,たとえば分離不安症,選択制緘黙は小児期に発症するとされたグループから,類似した症状をグループ化するという観点から不安症群に移動した。従来成人期に発症すると考えられていた疾患の多くが児童思春期に発症することが最近の研究から明らかになったこともあり,DSM-5は精神疾患をよりライフスタイルの中で縦断的に捉えようとした点は評価されることと考えられる。
さらに,児童思春期の疾患は,枠組みが変わったのみではなく,個々の診断にも大きな変更がなされている。以下にDSM-5における児童思春期領域での改訂の中でインパクトの大きなものついてコメントする。特に新設された神経発達障害群に含まれる疾患では,多くの変更が加えられ,今後の日常臨床にも大きな影響が予想される。従来の精神遅滞がintellectual disability(ID:知的能力障害)と名称が変わって,同時に基本的な概念も大きく変わった。精神遅滞では,従来,概念的な領域の問題(つまり低いIQ)が診断の中心に置かれていたものが,IDでは社会的な領域,日常生活の能力の領域を加えて3つの視点から包括的に捉えることが診断の中心に置かれることになり,IQに偏った評価が改められた。この改訂は知的能力の問題の本質に迫るものとして歓迎される変更である。
Copyright © 2015, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.