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はじめに
思春期の精神科臨床は児童精神科臨床の一部あるいは延長と考えることができるし,成人精神科臨床の一部と考えることもできる。しかし同時に,思春期臨床を児童精神科臨床とも成人精神科臨床とも異なる,他の年代とは異なった独特の理解と対応を必要とする独立したものと考えることもできる。
歴史的に見ると,社会構造の変化や経済成長によって19世紀ころより,生物的な成熟と社会的な成熟との間に時間的な開きが生じ,社会的な意味での大人になる準備期間として思春期が生まれてきたと言えるであろう。特にわが国の農村や漁村部では,江戸時代の中頃より若者宿やお伊勢参りなどの「村落共同体の大人としての社会性を身につける」システムが作られていたことは興味深い。
少年法では20歳未満が少年であるが,14歳以上20歳未満の違法行為は「犯罪」と呼ばれ,原則として家庭裁判所で審判され処分が決定される。14歳未満の違法行為は「触法」と呼ばれ,刑事責任は問われない。法律的に見ると,14歳以上20歳未満が成人と子どもの中間と見なされているといえる。
思春期の問題や疾患が現実に考えられ始めたのは,欧米では第二次世界大戦後であり,それはエリクソンの「自我同一性」5)(1959年)やブロスの「青年期の精神医学」4)(1962年)などとして結実した。また,わが国では1960年前後から,摂食障害や不登校の論文が記されるようになり,その後,1972年には辻悟氏らにより,わが国初めての「思春期精神医学」11)の教科書が記され,その後,次々と思春期の精神病理と治療に関する著書が出版されていった。
本稿では,思春期精神科臨床を(1)児童精神科医療の広がりとしての思春期精神科医療一児童精神科臨床に学ぶものと望むもの,(2)独自の立場としての思春期臨床の2つの点から検討してみたい。
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