書評
—神庭重信 著—うつ病の論理と臨床
鈴木 國文
1
1名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻
pp.236
発行日 2015年3月15日
Published Date 2015/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405204879
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「うつ」をめぐる混迷に新たな視座を
帯に謳われているように「うつ病」に関する「第一人者の最新の到達点」である。もちろん,第一人者の論考が必ずしも面白いわけではない。が,この本は面白い。おそらく,いくつかの明確なねらいのもとに編まれているからであろう,章が進むほどに,読み手を誘う。著者のねらいは,互いに連関した以下の三つの点にあるのではないかと思う,多分…。
一つは,進化心理学という医療実践からはいささか遠いものとも見えがちな領域について,遺伝子に関する確かな知と地道な精神医学実践をふまえ,「うつ病」という具体例を通して,精緻に論ずることである。一般に,遺伝子を巡る考察が進化論的視点にまで広げられると,医学の外へと出てしまうきらいがある。著者はそのことに十分自覚的である。著者自身が「(進化論的視点は)学問論争にこそ向けられるべきで,受診者に向けられる筋合いのものではない」という樽味の警句を挙げているように,本書では,何が臨床に役立ち,何は臨床とは関係のない議論なのか,慎重に留意しながら論が進められている。
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