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Ⅳ.不安と,動的過程の左右差についての個人差
試験にともなう学生の不安により,言語刺激についての右視野優位が,左視野優位に変わってしまったという研究結果を先に述べた(図3)。Tuckerら(1978)76)は,性格的に不安になりやすい素因の強い学生では,左半球への処理負荷とも言うべき現象があることを既に見いだしている。これは,2つの結果から言えることである。性格的に不安になりやすい素因の強い学生と弱い学生とを比較すると,不安素因の強い学生では,音の大きさの判断課題で,右耳優位の左右差を示したが,これは左半球の賦活が強いことを示すものである。同時に,彼らは言語的・空間的視覚刺激の処理で,左視野よりも右視野での成績が悪かった。われわれの結果は,状況依存的な不安が増大すると,右半球より左半球での処理が劣ることになるという点でTuckerらの結果と類似しているが,それは右半球での成績が改善するためであった(図3)。
不安の際の左半球の賦活の意味は,皮膚電気反応を指標として部分的に解明されてきている。慣れの速さと反応の左右差との間に関連があることを明らかにした上述の実験では(Gruzelier et al., 1981a31)),引き続いて質問紙への回答を31人の病院職員と62人の学生について分析したが,その結果,不安の水準が最も高まると左半球による支配へと切り替えが起きることが示唆された。この研究の後に,より多人数の学生を対象として行った研究では,慣れが速い人(N=22)を慣れの遅い人と比較することが出来た。この研究では慣れの遅い人が多かったので,慣れの遅い人を反応が右手で大きい人(N=18)と,左手で大きい人(N=22)とに更に分けることができた。「速い慣れは左半球の,遅い憤れは右半球の支配を受ける」,という先に述べた半球左右差と慣れの関係についてのモデルに照らせば,左手の反応が大きい後者の群は変則的であると見なすことができるかも知れない。
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