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I.はじめに
「痴呆と前頭葉病変」は古くから論じられてきた問題であり,数多くの研究報告がある1,4,6,11,12,14〜16,34,39,41〜43,46,48)。前頭葉病変による知的機能の障害については,研究者によりいろいろな表現で記載されている。例えばKleist(1934)16)は「失論理Alogie」,Ackerly(1935)1)やBrickner(1936)6)は「総合能力synthesizing abilityの低下」,Rylander(1939)42)は「論理的判断力reasoningの障害」,Goldstein(1944)11)は「抽象的態度abstract attitudeの欠如」,Halstead(1947)14)は「生物学的知能biological intelligenceの障害」,Hafner(1955)12)は「計画および企画能力Planund Entwurfvermogenの障害」,Luria(1978)34)は,「人間の諸活動(運動,行為,記憶活動,知的行為)の意図・プログラミング・調整・確認機能の障害」と表現した。これらの研究者の多くは,前頭葉は人間の最高次の精神機能に決定的な役割を演じているという立場をとるが,Teuber(1959)43)やPiercy(1964)41)のようにそれに反対する立場もあり,Teuberが「前頭葉の謎」と表現したように,前頭葉の機能は他の脳葉に比してはるかに謎につつまれている。
ところで,前頭葉病変と痴呆についての従来の研究では,前頭葉に病変がほぼ限局している症例を対象としている。筆者は,ここで従来の研究報告と同じようなことを論ずるつもりはない。視点を変えて,臨床神経病理学的な観点から,自検例を対象として前頭葉を含め大脳の広範な病変によって起こった痴呆に対して,前頭葉病変がどのような影響を与えているか,また,大脳に病変がなく皮質下諸核に病変がある際にみられる痴呆に対して前頭葉がなんらかの役割を演じているかといったことを自検例に基づいて検討してみたい。
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