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I.はじめに
精神分裂病,慢性覚醒剤中毒,抗精神病薬の3つの事実から精神分裂病ドーパミン仮説が提唱されて以来この説に関する数多くの研究が行なわれてきており,その成果には目を見張るものがある。しかし,現在まだ精神分裂病の本態解明への道は遠いと言わざるをえない。近年までの研究においては"ドーパミン系"と言えば黒質線条体路および中脳辺縁路を指すことが多く,分裂病ドーパミン仮説もこの2つの経路を念頭において成立し,研究されてきた。ところが,近年"中脳皮質ドーパミン系"と呼ばれる前頭皮質へ投射する新しいドーパミソ系の存在が注目を浴びるようになり(Glowinski et a1. 1984,Thierry et al. 1984,Bunney et al. 1984b),研究が進むに従いこのドーパミン系がこれまで研究の対象としてきたドーパミン系とは異なった特徴を有することが明らかになりつつある。一方,近年CT,ポジトロンCT,局所脳血流量,脳波パワースペクトル,神経心理学的検査,死後脳の生化学的分析などから得られた所見にもとづいて精神分裂病における前頭葉機能異常が注目されてきている。さらに精神生理学的には精神分裂病においては"選択的注意"に障害が認められるとされ,それを客観的に捉える手段が開発されつつあるが,この選択的注意は中枢モノアミン系と関連すると考えられている。このような各分野で得られている最近の知見を考慮すると,"精神分裂病,中脳皮質ドーパミン系,前頭葉機能"の3者を統合し,前頭葉においてドーパミンが果たす役割を考察することは精神分裂病の病因病態を理解するうえで欠くことのできないことであると考えられる。以上のような現状認識を踏まえて,この総説では中脳皮質ドーパミン系について現在までに得られている知見を総合し,この系と精神分裂病との関連を展望して行きたいと思う。
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