巻頭言
精神医学の呼びかけ
新福 尚武
1
1成増厚生病院
pp.866-867
発行日 1985年8月15日
Published Date 1985/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405203986
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最近の巻頭言は格調の高い学術的なものが主となっているようであるが,むかしはどうだったのだろうと調べてみると,必ずしもそうでなく,学会の情勢を反映したようなものが多かったようである。たまたま第10巻第3号の「20年後の精神医療のために」という臺弘(東大教授)論文が目についた。それは20年後,つまり,こんにちの精神医療のためにと,当時問題になっていた精神科診療費公費論や学会認定医の問題などをとりあげ,どちらもその得失を慎重に考えて対応すべきだとしたうえ,個人的見解を付け加えたものである。率直に言って,この真摯な発言がどれだけ読者にアピールしたか,知らないが,その後の状況,経過などからは,ただ波の間にまに消え去ったと見るほかない。それにしても20年の歳月は先を見ると長いようだが,過ぎてしまえば一瞬だなあという感慨をあらたにするのみである(なお,前者はともかく,後者の認定医問題は遠からず必ず重要問題として再浮上してくるに違いないと思うが,今どきこういう問題を持ち出すなど野暮の骨頂だと笑われよう)。
さて,私は精神科医として50年を無為に過ごし,いま廃兵の列に伍してぼんやり考えたり見回わしたりしているにすぎないが,無為だっただけいっそう痛切に感じ訴えたいこともある。視力が衰え乱視が加わって物の姿が正確にとらえられなくなっているうえ,語い選択能力も障害されているので,適切な文にならない惧れがきわめて多いが,あえて思うままを述べさせてもらいたいと思う。それは精神医療についてではなく,精神医学についてである。
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