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I.はじめに
「高次精神活動を脳の構造との関連において研究する学科」(Hecaen,1972)と定義される神経心理学Neuropsychologyは,1960年代から国際用語として定着して次第に学際的関心を集め,1970年代に至って急速な発展をみせる。「神経心理学」の名を冠する研究書,入門書も数多くみられるが,そのような著書の1つ(Heilman & Valenstein,1979)の序文をGeschwindは次のように書きはじめている。
「神経心理学という術語は……二つの密接に関係する意味をもっている。第1は行動の変化と,神経系における損傷の部位およびタイプとの経験的相関である。第2は行動の碁礎となる神経的機序の解明である……。」
要するに神経心理学とは,かつて主にドイツ語圏で脳病理学Gehirnpathologieと呼ばれていたものにほぼ相当し,この脳病理学は脳の局所的損傷による巣症状としての高次精神機能および行動の障害を扱ってきた。神経心理学はこのような人間神経心理学human neuropsychologyのほかに,実験的に動物の脳損傷と行動変化を扱う動物神経心理学animal neuropsychologyをも含んでいる。人間を対象とする場合にはやはり中心となるのは失語・失行・失認の症状,分類などからこれに関連して大脳半球優位の問題その他が主題となっている。さらに巣症状としての精神症状,すなわち器質性の幻覚,記憶障害,知能障害,情動障害などを対象として脳と精神機能の相関を探求する。Hecaenもいうように神経心理学は一方ではいわゆる神経科学neuroscience―神経学,神経解剖学,神経化学など―と関わり,他方では行動科学や人文科学―実験心理学,発達心理学,心理言語学,言語学など―と関わる。このように考えると神経心理学はまた当然のことながら精神病理学Psychopathologyとも関係が深いはずである。しかしこの両者の関係といっても,それをどのように考えるべきであろうか。単なる並列関係なのか,従属関係なのか。この問題はすでにEy, Ajuriaguerra et Hécaen(1947)によって,神経学と精神医学との関係として詳細に論じられる機会があったが,それについてはまた後に述べることにしよう。ここではまず第一に神経心理学においてここ十数年来,split brain(Sperry)とかdisconnexion syndrome(Geschwind)の知見を機として関心を集めている大脳半球優位ないしcerebral lateralityの問題をごく簡単に紹介し,次いでこの神経心理学的知見が「内因性」精神病研究に及ぼしたインパクトについて触れてみたい。その一部はすでに分裂病研究の神経生理学的研究の文脈で語られている(安藤,1979)ので多少の重複は避けられないけれども。
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