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I.同一性の概念をめぐる論議
1.はじめに
同一性identityということばが,わが国の精神科領域で用いられるようになってから,すでにかなりの年月がたっている。周知のようにこの概念は,はじめ1950年代にアメリカの精神分析学者E. Erikson4,5)によって精神医学界に提出され,その後心理学,社会学,教育学等々広い分野にわたって,さかんに用いられるようになっている26)。それにもかかわらず,いざこの用語,概念についてのErikson自身による定義を検討してみると,意外に明確に整理された記述がない。そればかりでなく,彼自身による同一性をめぐる概念規定はかなりあいまいであるとの批判もある。
そこで,むしろここでは彼の業績を総合的な視野を介してわが国に紹介してきている小此木17,25)による記載に基づいて説明することから始めたい。さて,同一性ということばは,しばしば多義的に用いられるものであるが,より厳密にはその下位概念として,集団同一性group identity,自我同一性ego identity,自己同一性self identityなどが区別されている。集団同一性group identityとは,「一定の集団との間で是認された役割の達成,共通の価値観を共有して得られる連帯感・安定感に基礎づけられた自己価値,および肯定的な自己像を意味する17)」。そしてその集団の種類によって,たとえば国家同一性national identity,家族同一性family identity,職業同一性professional identity,性同一性sexual identity等々をあげることができる。これに対して自我同一性ego identityとは,それらの「各同一性を統合する自我の統合機能に即して17)」用いられる概念であり,人格の一構造とそれに基づく機能を意味する。また,自己同一性self identityとは,これらの同一性を「自己意識に照らした際に感じられる意識的な感覚17)」を意味する。
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