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I.はじめに
最近20年間における内分泌学の進歩は真にめざましいものがある。なかでも神経内分泌学的研究の発展は,中枢神経系と内分泌系の密接な関連性を明らかにし,精神医学の領域にも新たな関心を呼び起こした。
副腎皮質などの末梢ホルモンの分泌は,いうまでもなく脳下垂体の各刺激ホルモンによって調節されるが,これらの刺激ホルモンおよび成長ホルモンやプロラクチンを含む脳下垂体ホルモンの放出は,主に視床下部の神経細胞でつくられる神経ペプチド(脳下垂体ホルモン放出ホルモンおよび放出抑制ホルモン)によって支配されている。さらにこれらの神経ペプチドの産生には,ドパミン,ノルアドレナリン,セロトニンなどの神経伝達物質が深く関与する。視床下部や大脳辺縁系の刺激や破壊によって末梢ホルモンの分泌に大きな変動を来すのは,このような機能関連に基づくものである。
また一方,末梢ホルモンは,これらの上位中枢にfeed-back作用を及ぼすとともに,各神経伝達物質の酵素活性をはじめとする脳全体の代謝活動に広範囲な影響を及ぼす。また上記の神経ペプチドは視床下部のみならず脳全体にひろく分布し,脳下垂体ホルモンの放出ないし抑制のみならず,多様な中枢作用をもつことが推定されている。すなわちホルモンは摂食,飲水,性行動,攻撃活動などだけではなく,精神活動全体と深いかかわりをもっている。多少誇張した言い方をすると,脳はホルモンを産生,放出する内分泌器官であり,ホルモンは一種の神経調節物質であるともいえるのである21)。
本稿ではこのような脳とホルモンの密接な結びつきをもとに,1)日常生活で経験あるいは診療場面で観察される情動のうごきに伴って,どのようなホルモン分泌の変化がみられるか,2)ホルモンの過不足ないし周期的変動によって,精神状態にどんな変化を生ずるか,3)ホルモンをひとつの指標として精神疾患の病態をさぐることはできないか,4)向精神薬の作用機転とホルモンのあいだにどんな関連がみられるか,という4つの問題について検討することにしたい。
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