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I.はじめに
非定型精神病の病態生理を問題にするさいには,つぎの2点に注意しなくてはならないと思う。
ひとつは,誰がみても非定型精神病という診断で納得のゆくような,はつきりとした症例を研究の対象に選ぶことである。この点があいまいでは,どんな検査成績が出ても水かけ論になつてしまう。これはきわめて当然のことであるが,非定型精神病の範囲と概念が人によつてまちまちな現在,とくに留意する必要がある。私どもは仮りに,黒沢,鳩谷らのあげる諸特徴に加えて,病状悪化の周期が必ず月経時に一致しておこるという具体的な条件をもうけ,それに合致した症例を対象にとりあげることにした。このような症例は鳩谷らの報告例1〜3)のなかでも重要な部分を占め,ある意味ではいわゆる非定型精神病の特性をもつともよくそなえたものということもできる。また比較や再検のさいにも,対象がはつきり決められるだけ紛れが少なくてすむことになろう。
第2は,病態生理の面で異常な所見がえられたさい,その原因をひとつひとつあとづけできるような検査方法を,あらかじめくふうすることである。内分泌機能は,年令,性別はもちろん,生活環境や栄養状態などによつて大きく左右される。また精神状態の変化から大きな影響をうけることもすでに周知のとおりである。患者を診断別に分けて1回だけ検査を行ない,各群の間で成績を比較する横断面的な方法では,これらの要因にもとづく変化を正しく吟味することができない。どうしても縦断面的な研究方法を用いて,同じ患者に長期間連日検査を行ない,同時に精神および身体的状況を観察して,両者の関連を仔細に検討することが必要になる。私どもが,のちにのべる縦断面的な検査方法をとつたのはこのためである。
これらの点については鳩谷助教授も十分に考慮をはらつておられるし,またあえて断わるまでもなく自明のことである。しかし一定の検査条件がえがたく,ともすれば過大な結論に導かれやすい研究領域の事柄であるだけに,とくに慎重な態度が望ましいと考えるのである。
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