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われわれはこの10年来,「情動の精神生理学的研究」という主題で,一連の研究を行なつている1)〜21)。いわゆる内因性および心因性精神疾患における病像の基盤になつているのは情動のうごきであり,もしもそれを身体過程との関連においてとらえようとするならば,少なくとも現在の段階においては,生体反応のレベルで追究するのがもつとも確実であり,また合理的であると考えられる。
生体反応として問題になるのは,いうまでもなく自律神経内分泌機能であるが,それらの機能の変動と,情動のうごきを基盤とする病像の変化との関連性の解明が,われわれの研究の中心課題となつているわけである。観察方法は二つに分けられる。第1は横断面的観察で,ある時点において各種の精神疾患についてそれぞれの資料を集め,それらを統計的に処理して比較する方法であり,第2は縦断面的観察で,個々の症例について病像のうごきを詳細に追いながら,数週ないし数月,またはそれ以上にわたつて連続的に(ときには連日)それぞれの指標の値を測定し,それらの間の関連性を継時的に追究する方法である。第1の方法は一般に行なわれているが,われわれの経験では,どの指標の値についても,疾患別に有意の差をとらえることはほとんど不可能でありむしろ情動のうごきが激しい時期において,平静な時期にくらべるといちじるしい異常値を示し,またえられた値の分散が大きい。このことは第2の縦断面的観察によつていつそう明確にとらえることができる。ここでは鳩谷博士の所論にたいして発言することになつているが,実は第58回日本精神神経学会のシンポジアムで,すでに教室の山下15)が討論を試みており,われわれの基本的な考え方は当時と変りないが,今回は主として性腺機能を対象とした最近の研究(伊藤20),吉村21))の一部をのべてみたい。なお今回のシンポジアムにおいては17—KS分画についてもふれたが,この点については教室の篠原19)が,すでにその原著のなかで鳩谷博士の所論にたいしてわれわれの見解を発表しているし,また紙面の制限もあるので,本稿では省略する。
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