特集 MATERNAL ADJUSTMENT
内分泌学的適応
武谷 雄二
1
,
水野 正彦
1
Yuji Taketani
1
,
Masahiko Mizuno
1
1東京大学医学部産婦人科学教室
pp.429-435
発行日 1989年5月10日
Published Date 1989/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409207996
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あらゆる生理現象の中で妊娠によりひき起こされる変化ほど劇的でしかも持続的なものはないといっても過言ではない。このような著しい変化に適応するため母体はさまざまな形で対応するが,就中,内分泌学的機序により遂行される適応は極めて重要である。なぜならば妊娠の起点を着床に求めればそれに引き続いておこる一連の変化は胎児または胎児胎盤系の存在により誘起された液性因子によるところが大きいからである。胎児・胎盤によりもたらされた液性因子は母体の各内分泌臓器の機能を修飾し,その結果母体は妊娠という負荷に対して適応し得るようになり,一方では胎児の生育にとって好適な環境の形成につながることになる。このように胎芽の存在により生じた諸種の変化は母児間で複雑かつ精妙な内分泌学的連鎖反応を起こしつつ妊娠は母児にとって安全に進行してゆく。
妊娠に伴って生ずる内分泌学的変化は妊娠の合併症の病態生理とも密接に関係するものであり,産婦人科医は母体の内分泌的適応現象を熟知していなければならない。そこで本稿では,妊娠により変化する母体内分泌系を妊娠に対する母体の適応という視点より概説する。なお,胎児または胎児・胎盤系の内分泌は母体内分泌と不可分の関係にあるが,本稿では紙面の都合上割愛する。
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