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I.はじめに
酒酔いに関連した犯行時の精神鑑定において,最も基本的な条件としては,犯行時が禁断症状の時点である場合を除けば,アルコールの血中濃度が,ある程度あることであろう。加藤11)は,鑑定症例12例を含む15例の被験者について飲酒試験を行ない,酔度を5段階に分け,第3期(酩酊期)の状態像を示したときの血中濃度が1.5‰以上のものが12例(80%),1.1〜1.4‰のものが3例(20%)であったことから,Gruhleが酩酊の基準として主張している1.5‰は,日本人についても妥当であると述べている。後藤8)は,学生および職員からなる58例の男子健康者について飲酒試験を行ない,1.51‰以上の血中濃度で第3期または第4期(泥酔期)の酔度を示したものは,22例中20例(91%)を占めていたが,同様な酔度は,1.01〜1.50‰の17例中11例(65%),1.01‰以下の19例中6例(31%)にも認められた。とくに最後の6例中の4例は,0.5‰以下であったという。これらは先天性にアルコール耐性が弱いものであるが,後天性のアルコール不耐症(alcoholic intolerance)の場合にも類似の傾向が考えられる。Binswanger4)は,病的酩酊の起こる血中アルコール濃度は,2.16〜2.55‰のこともあり,0.63〜0.39‰のこともあるという。Jellinek10)は,飲酒中,アルコール血中濃度の単なる減少だけでも,禁断症状が現れるという。
一般に,犯行当時の飲酒量は,かなり詳しく調査されているが,犯行後のアルコール検知は,飲酒運転以外には,あまり多くない。加藤11)も,現場での直接測定の資料が得難いので,事件後に測定されたアルコール血中濃度から,事件当時の血中濃度を逆算するWidmark, Elbel7)の試みは,ほとんど応用できないと述べている。酩酊時犯罪について著者の鑑定12例および,教室関係者の協力を得て集めた48例のうち,犯行後にアルコールの血中濃度を測定した例はなく,呼気中の濃度が検知されたものも4例に過ぎなかった。このうち著者の鑑定の第1例を中心として,他の3例についても,犯行時の血中アルコール濃度の推定と犯行時の酩酊状態との関係について検討を行なったが,以下述べるように,犯行後のアルコール検知は重要な意義を持つと考えられる。
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