特集 近代日本の宗教と精神医学
座談会
近代日本の価値観と精神障害
荻野 恒一
1
,
三永 恭平
2
,
星野 命
3
,
小野 泰博
4
,
加藤 正明
5
1東京都精神医学総合研究所
2東京神学大学
3国際キリスト教大学
4図書館大学
5東京医科大学
pp.1318-1330
発行日 1976年12月15日
Published Date 1976/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405202566
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臨床における宗教と価値観
加藤 ただいまから始めたいと思います。今回は宗教的価値観を中心に,現代日本における多様化した宗教事情の中でのさまざまな価値観を背景に精神医学の臨床における症候論的な問題,いろいろな価値観を持つ診断者の問題,あるいは治療者の価値観が診断や治療にいかに関与しているか,そういう問題をいろいろな角度から取り上げていただくということが1つ―その中には,比較文化精神医学的な問題も含めていただいて,診断的,症候論的な問題を取り上げていただく。もう1つは,広い意味の治療でありますから,治療者と治療される者との関係の中で,宗教的価値観がどのように臨床的に働いているか。実際にそれが有効に働いているのか,あるいはどのような関与の仕方をしているのかという,2つの問題を中心に論じていただきたいと思います。
今日の精神医学がかつてのように人間を外側からだけで症候論的に診断していくという傾向が少なくなっているだけに,精神科医が治療に入るとこの人が異常か正常かということを決める診断ですらも,非常にぐらついてきていると思います。われわれはできるだけ自分の価値観を相手に押しつけないようにしよう,自分の人生観をなるべく出さないようにしようという態度でいるんですが,それでは異常や正常の判断がはっきりしません。問題がなぜ問題なのかということすらも,今われわれは大変動揺していると思います。
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