Japanese
English
研究と報告
粘液水腫に伴う精神病—症例と文献的展望
A Case of Myxedema Psychosis
岡本 重一
1
,
大谷 峯久
1
,
朝井 栄
1
,
青木 太
1
Shigekazu Okamoto
1
,
Minehisa Otani
1
,
Sakae Asai
1
,
Futoshi Aoki
1
1関西医科大学神経精神医学教室
1Dept. of Psychiatry, Kansai Medical School
pp.597-603
発行日 1975年6月15日
Published Date 1975/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405202328
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I.はじめに
粘液水腫に伴う精神障害は,欧米では古くから注目されており,それに関する文献も少なくない。これに反し,本邦では従来あまり報告がないようである。しかし近年本邦でも阿部ら1),鳥飼ら21)は甲状腺機能低下症はそれほど稀な疾患ではないが,見のがされたり他の疾患と誤診されていることが少なくないと述べている。とくに阿部らは本症の精神神経症状が誤診の種になりやすいと警告し,クローニンの小説「城塞」の中で若い医師マンスンが急性錯乱状態で精神病院に送られかけた患者を甲状腺機能低下症であると看破して救った一節を紹介しているが,鳥飼らも本症が神経衰弱,更年期障害,うつ病,精神分裂病などとされていることがあると述べている。
われわれは長年にわたり精神分裂病の病名で精神病院を転々とし,われわれも最初は肝脳疾患群に属するものと疑っていたが,大谷がTriosorb Testによって甲状腺機能低下を知ると同時に粘液水腫の諸徴候を見落としたり誤解していたことに気づき,甲状腺治療によって救い得た症例を経験した。この症例では,粘液水腫に気づいた時点での状態から推測して,発見が数カ月遅れていたら死の転帰をとったことも考えられる。もっと早期に発見しておれば,精神的欠陥もより軽度ですんだことも当然で,精神病の診断にdiagnose per exclusionemの要素が大きいだけに臨床諸検査の必要性を痛感させられた。また,本例での印象から,R. Asher2)が忠告したごとく,粘液水腫が正しい診療を受けずに漫然と精神病院に収容される可能性も推測された。その意味で,1例ではあるが症例を記載報告するとともに文献的展望を行った。
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