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I.分裂性痴呆を題目とした理由
いまどき分裂性痴呆あるいは早発性痴呆などというと,こういう言葉を持ち出すのは時代錯誤であるように感じられる。この痴呆の特集の計画にも,もともと入っていなかったもので,私は痴呆の総論を割り当てられたのであるが,とくに願い出て変更していただき,あえて分裂性痴呆という題にした。早発性痴呆という概念が精神分裂病に変わってから,この疾病から「痴呆」は消え去ったかの観を呈し,器質的痴呆においては知的なものの低下であり,分裂病では情意的なものの鈍化であるとされ,痴呆においては必ずしも知的なもののみが侵されるのではなく,人格全体の低下であり,情意的な鈍さや単純化,下級化もあるのであり,分裂病においては情意的鈍さによって残っている知的能力の発揮ができないにしても,よく見れば,両者の区別は直ちにできるものとされる。
30年以前に,私が初心者の頃,精神病院で古い欠陥患者を多数受け持たされて,両者の区別は十分できるものと思っていたときに,戦争中の空襲で焼失した精神病院の患者を多数受け入れたことがある。病床日誌は焼失して既往歴はまったく不明であるが,一人一人調べていけば簡単に診断できるものと思って見てゆくと,器質性痴呆か,精神薄弱か,分裂病かの区別ができない症例が多いので驚いた。接触の障害や分裂病くささというような主観的な感じも当てにならない。大体当るように思うのは分裂病の症例が非常に多いせいもある。今までの経過や,残っている少しの分裂性体験,過去に持っていた分裂性体験の供述によってはじめて分裂病ということが分かると,そこではじめて,やはり接触が不良である,分裂病くささがあると思い当るようなわけで,これら観察者の主観的な感じは,あとから付け加わったものであると分かることがよくあった。しかしこの頃は,まだ自分の診断能力が未熟なためであると思っていた。
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